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01

日常とpoésie. March

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先月、素敵な旅をした。わたしは素敵な旅をすると、だれかと一緒にいたくなる。
 
 今回はひとり旅ではなかった。遊び友達の一人が有給をとってベトナムに住む友人に会いに行くというので、ついていったのだ。2月初旬のベトナムはテトとよばれる旧正月で、毎日お祭り騒ぎだった。わたしたちは、ベトナム人の友人とその家族のお正月に混ぜてもらい、お祝いのごちそうを食べたり、南の島へ小旅行に行ったりした。ココナッツボートにも乗ったし、世界最長のロープウェイで山を登った先にある天空の遊園地でも遊んだ。ランタンで彩られた幻想的な街が見たくて、飛行機に乗ってホイアンへも足を伸ばした。ホーチミンの夜景は、今まで見たどの街の夜景よりもカラフルでかわいらしかった。

 遊びに貪欲でサービス精神旺盛な友人たちのおかげでスケジュールはかなりハードなものとなり、わたしたちは毎晩遊び疲れてよく眠った。

 ある夜、皆が寝室に行ってしまったあと、わたしは一人でリビングにいた。そのとき滞在していたのは友人のさらに友人が住んでいるという高層マンションの一室で、シャワールームも、ベッドルームも2つずつあった。わたしたちはテトを利用して帰郷しているらしいその部屋の持ち主に会わなかったけれど、調度品を見るに、どうやら男の人の部屋であるらしかった。

 旅行は終盤に差し掛かっていた。わたしはこの旅ではじめて、ひとかたまりの時間、一人になったことに気づいた。
 人嫌いというわけでは決してないのだけれど、習慣めいた正確さでもってわたしは、絶対的に一人の時間を必要とするタイプだったはずなのに。



 昼休みは一人で過ごす。友達の誘いをしばしばパスする。読書も街歩きも一人の時間を楽しむための趣味だし、一人になるために喫茶店やカフェへもよく行く。そういうことの一環として、だれかと旅をするときには、早朝や夕方に散歩へ出るのが定番だった。  
 天候が悪くても、お店屋さんが一軒もないような街にいても、言葉が通じない土地でもこわがらない。それは朝にシャワーを浴びる人が旅先でだってそうするのとおなじように、旅という非日常に溶け込む日常の、ほとんど習慣みたいな行動だった。

 それなのに今回は遊ぶことと眠ることに夢中で、普段のわたしが愛している暇や、予定と予定の隙間みたいな時間が全然なかったから、一人で散歩に出ようなんて思いつきもしなかったらしい。人の家の、だだっ広くてものが少ない、ホテルみたいなリビングでそのことに気づいたわたしは、けっこう本気でびっくりした。夢中になることができれば、一人にならなくても平気でいられる。
 それはわたしが今回の旅でした、超個人的な発見だった。



 空港で帰りの飛行機を待っているとき、友達のゆきちゃんが「好きな人とは対等でいたい」という趣旨の話をしてくれたのだけれど、わたしはそれを好きな人のいる現実の世界を夢中に生きている人にしかできない話だと思った。
 
 だれかと深く知り合うこと、夢中になることの例として、たとえば恋愛にのめり込むこと。わたしは長い間それを景色の一部になってしまうことみたいに思って、正直なところおそれてきた。この感覚がわかる人はそういないかもしれないけれど、わたしはだれかと恋をするとき、互いに相手の理想とする恋人を演じ、恋愛の定型にはめ込まれてゆく自分たちを景色みたいだとーー安っぽい額縁に閉じ込められたつまらない風景画みたいだとーー本当にそう思ってきたのだ。
 景色の外には夢中になりきれないもう一人の自分がいて、彼女はその絵を好きではなかった。だから彼女は景色のなかに閉じ込められる恐ろしさから抜け出そうとするわたしの手を強く引いて、わたしを一人ぼっちにした。
 たぶんずっとそういうふうに、わたしは一人になりたがってきたのだと思う。

 夢中なゆきちゃんがうらやましかった。人の行き交う空港でわたしは、はじめて景色になってもいいと思った。この旅の間ずっと、わたしはとびきり素敵な景色のなかにいたのだな、とも。全然、悪くなかった。映画や音楽や小説や絵、あらゆるドラマの原作は、わたしたちのいる現実の世界なのだ。

 とびきり素敵な景色に閉じ込められて、だれかに夢中になってみたい。最近は、少し期待して眠っている。



杉浦 真奈(Sugiura Mana)
旅する古本屋「古本とがらくた paquet.」として活動中。植物図鑑と古い料理本が好き。
「ほぼ月刊ぱけのこと」というフリーペーパーをつくって配っています。
イベント等への出店予定はSNSをご覧ください。
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