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梅干しとゲージツのあいだ ~同じ日に同じ時間を過ごしたペコ吉とスズキの備忘録~ 書き手:ペコ吉

梅干しとゲージツのあいだ
~同じ日に同じ時間を過ごしたペコ吉とスズキの備忘録~
                  書き手:ペコ吉


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沼津・愛鷹山で懸命に美味しいお茶作りをしている五十鈴園の鈴木さんが、沼津港にお店を出した。
以前、fika+でお茶特集をした際のイベントでもご協力いただき、いろいろなお話しをしていただいて以来、なにかとお世話になっている鈴木さんの新しい挑戦に、編集部をあげて応援したいと、開店から1週間経ったある日、編集長スズキとペコ吉が出かけた。
(ビューティ近藤は、残念ながら今回もお休みです)

週末の沼津港は、自粛解除もあって、以前の賑やかさを取り戻しつつあった。
五十鈴園さんのお店は、港の一番奥。大きな有料駐車場からすぐの場所にある。漆喰塗りのような真っ白い外観と暖簾が目印だ。

のぞくと、お店の突き当りで冷茶などを提供するカウンターの中で、朗らかな笑顔で仕事をしている鈴木さんが見えた。

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お店を開店して1週間で非常事態宣言が出て自粛になっちゃって……。

と、苦笑しているが、鈴木さんの頭の中は、これからの展開に向け、前向きな希望でいっぱいのようだった。

地元の人たちでさえ、沼津がお茶の生産地であることを知る人は少なくない。
お茶を売るお店はあっても、お茶生産者自身が手がけるお茶のショップは、説得力も情熱もきっと違う。

お父さまから受け継いだ茶畑に加え、手のまわらない農家仲間の茶畑の管理、茶葉の生産、販売などだけでも十分に忙しいのにも関わらず、あえてお茶のアンテナショップをオープンさせた鈴木さんの覚悟を思った。

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その一端を感じるのが、お店を入って右手の棚に並んだ美しい急須たち。
常滑急須の人気陶芸家・磯部輝之氏の品だ。
限られた大手百貨店しか取り扱いがないという磯部氏の作品が、ズラリと並んでいる。

急須ひとつひとつ、徹底的にこだわり、印を押した独特の作風は、手にとれば軽やかで、すっぽりと両掌の中におさまる。

地味なイメージをもたれやすい日本茶だが、極上の茶器で楽しむことで、まったく違う新しい世界が広がる。
お茶を美味しく、おしゃれに楽しむ余裕を忘れずにいてほしい、そんなメッセージが伝わってくる。

こんなに美しい急須で美味しいお茶を飲んだら、贅沢な気分になれるだろうなー、と妄想していると、編集長スズキが一言。

今日、買う気だから。

あらヤダ、なんかちょっとセクシー。
ホテルのバーカウンターで、ルームキーを置きながら、

今日、泊まる気だから。

って、ささやかれた感じに似てます。すみません、似ていません。妄想が……。

急須の大きさ、形などをさんざん見比べ、手にとって感触を確かめ、ようやく購入するひとつを決めたスズキ。
あれこれ迷うのが買い物の楽しみなのだろうが、ほぼ閃きだけで迷いのないペコ吉は、いつのまにか自分の欲しいお茶をサクッと買って涼しい顔。頭の中ではお昼に何を食べようかと考えていた。(伊豆半島一の魚市場・沼津港にいるからね、アジフライかなー。)

購入した急須を包んでもらいながら、マルシェなどのイベントで特別に販売するほうじ茶の大袋は買えませんか、と可愛い顔でスピード感あふれる無茶ぶりをお見舞いしている編集長スズキ。なにせ、とにかくお茶が好き。

スズキの剛速球に立ち向かえる相手は、そういない。
投げる編集長スズキ。受ける五十鈴園・鈴木さん。スズキに鈴木。だいぶ、まぎらわしい。

やや苦笑いの五十鈴園・鈴木さんは、どうぞ、どうぞ、とお茶の袋を取り出し、焙煎したてのほうじ茶を詰めてくれる。

優しい。
そうか、編集長スズキの剛速球には優しさで包むことが最大の防御になるのか!

何気に学んだペコ吉であった。

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お茶について、どんな質問でも真正面からしっかりと答えてくれる鈴木さんとお話ししていると、いつまでもお茶の話がつきないので、ついつい長居してしまう。

これ以上、お店に居続けると、店頭でお客の呼び込みまでしてしまいそうなので、また近々伺います、と約束してお店を後にした。


お店を出て5歩、歩くか歩かないかのところで、振り向きもせずにスズキが言う。

松福で食べる?

一択なのか。
たしかに、沼津港で昼前に待ち合わせと聞いた時に、お昼は松福の可能性もあるな、とは思った。思ったがしかし、ここは沼津港! 青魚が苦手な鈴木でも、美味しくたべられるシーフードランチは、選び放題じゃないか?

とりあえず沼津港だからさ、お魚か何か、食べない?

やんわりペコ吉。なんとかスズキの背中をそっと押して2歩くらい歩く。がしかし、

ん、でも……。

松福、はい。
ですね。一択。いいの、いいの。私も、食べたかった、ホントは。
海鮮どんぶりに後ろ髪をひかれつつ、松福へ行くよー♪

人気ラーメン店の松福。そして観光客が押し寄せる沼津港の目の前の店。そしてそして、まさにお昼時。いつも行列しているお店なのに、こんなにすさまじいタイミングで、いったい食べられるのだろうか、私たちは。

しかし、持ってるスズキと一緒に行動すると、そう待たずに席に案内された。
むしろ車を駐車場に停めた時のほうが、タイヘン。
お店の裏手に第二、第三駐車場があるのだが、駐車場の入り口付近に駐車スペースを上回る大きめの車が両サイドに停まっているために、まるで入ってくる客をこばむかのように駐車しにくいことこの上ない状況になっていたのだ。

なんにせよ、松福。お腹がペコペコだ。
スズキは味噌ラーメン。ペコ吉はかたやきそばと半チャーハンを選んだ。
松福でうまいラーメンを選ばない二人。ちょっと世の中を斜めにみたい時もあるのサ。

コロナ対策なのか、店内のテーブルレイアウトがガラリと変わり、客と客の間をグループ単位で仕切るお手製のプラスチックボード的なもので仕切られていた。

スズキの山盛り味噌ラーメンに続き、厨房からマッチョなお兄さんが肩幅と同じくらいの大きさの皿とチャーハンを持ってくる。

まさか、それは私のかたやきそばデスカー?

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でかい。

横綱が優勝記者会見とかでお酒を飲むでっかい杯くらいでかい。
そのばかでかい平皿に、パリパリ麺とたっぷり五目あんかけ。

スズキがその大きさに驚きの声をあげている。
声こそ出さないが、まわりの人たちも、きっと「大食いババァが松福にッ!」と、心でつぶやいているかもしれない。松福の営業日誌に、ババァがかたやきそばとチャーハンを食べた、とふるえる字で書かれたかもしれない。

ま、でもこれだけ大きいお皿だと、半チャーハンなのにほぼ普通盛の松福の半チャーハンが、ちゃんと半チャーハンらしく見える。目の錯覚でしかないけど。

スズキの味噌ラーメンも、てんこ盛りの野菜が乗ったずっしり系のおももちである。

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食べながら、ららぽーと、行く? とスズキ。
知り合いが沼津コートで作品を展示しているという。おぉ、ならば、ぜひ。

ふたりともきれいに完食すると、ららぽーと沼津へ向かった。
車中、満腹だねー、と話し、夕飯いらないかも、と女子っぽいフレーズを口にしてみるが、お互い、絶対に夕飯は食べることは確信している。事実、ふたりともしっかり食べた。


ららぽーとへの道順がイマイチ把握できていないペコ吉が、わかってる風の顔をして運転している。静岡方面に向かって走り、どっかのタイミングで富士山の方向に曲がればいいや、というだいぶ大陸的なスケール感で物事を考えているのだ。

それでも、すました顔をしているのは、スズキが道に詳しいだろうと計算もあってのこと。大安心だし、満腹だし、幸せ気分いっぱいなので、いつもは手に汗にぎる車線変更も、この時ばかりは流れるように美しくできたペコ吉。あまりに上出来だったので、つい、

今、上手だったよね、車線変更!

と確認してしまった。

車線変更? そうだね、上手だと思ったよ!

スズキ、後付けながら精一杯の優しい返答をくれた。

がしかし、残念ながらその車線では、ららぽーとに向かわないのだった。

左、左! 車線、戻して!

ゲッ! 
やすやすと右へ左に車線を変更するハイレベルな技術は、ペコ吉に備わっていない。
左から右への車線変更より、右から左への車線変更のほうが、ちょっと難しい気がするのは私だけだろうか。

今! 今なら(車線変更しても)大丈夫だから!

ホント? 大丈夫? 左いくよ! エイ―ッ!

こんなペコ吉に運転免許証を与えていてよいのかどうかわからないが、とにかく無事に車線変更した。そのまま直進。しばらく走り、富士山の方角にいつ曲がるのかなー、と不安になったペコ吉が、スズキに問うた。

どのへんで曲がるの?

え? 知らない。(スズキ)

まじかー。

ですよねー。私が判断しなくちゃですよねー。富士山との位置関係から察すると、たぶん、ららぽーとは、だいぶ行き過ぎているような気配がしますー。

ではまず、ハニカムさんに行こう!

つぶやいてみると、スズキも賛成してくれた。ハニカムさんへの道はわかっているので大丈夫。このまま、まっすぐ直進していればいい。すると、

あれ? 今のハニカムさんじゃない?

路肩を歩いていた人が、書肆ハニカム堂さんであったとスズキ。
そんなことないよ、週末だからお店にいるでしょ、とペコ吉。

ハニカム堂の前に車を停めると、なんと開店前。お店は14時オープンと貼り紙してある。

ほら、やっぱり、だからさっきのがハニカムさんだってば(スズキ)。
そうかなー。歩いてるかなー(ペコ吉)

まだ言い合っている。

わーわー言うてますうちに、どうも、どうも、といつもの笑顔でハニカム堂さん登場。

ほら、やっぱりハニカムさんだったじゃん(スズキ)
本当だねー。チッ(ペコ吉)

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そんな二人を後目に、開店前ですが、どうぞ入ってください―、とハニカム堂さん。

もちろん、その気マンマンの二人である。

FMの番組で書肆ハニカム堂を紹介していただいたので、さっそく誰かが来てくれたのかとワクワクしちゃいましたよー(ハニカムさん)。

新鮮味のないババァ二人組ですよ、すまんこってす。

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お天気のよい休日。ハニカム堂さんは、イイ気持ちで飲みながら歩いていたのだという。
歩き飲み。新しい。

平日は、ちゃんとしたサラリーマンとしての本業があるハニカム堂さん。コロナの影響で、ほぼ在宅ワークとなったという。

お家にいて、何しているんですか?(ペコ吉)

インシュです。(きっぱり)

一瞬、なんのことかわからなかったが、ようやく言葉の意味が「飲酒」だと理解できた。

なんだ、なにかカッコイイことっぽく聞こえましたよ。
でもなんか、好きです。そういうの。

あいかわらずハニカム堂さんの本たちは、どれもちょっと可愛くてクセがあって、買いたくなってしまう。あれこれ本を見ながら、あーでもない、こーでもない、と話をし、笑いあった。
とっても大事な話しをしたような気もするし、なんでもない雑談だったのかもしれないとも思う。


適当なところでお店を失礼して、ららぽーとへ向かう。今度は大丈夫。頑張れば行ける!


ハイ、着きました、ららぽーと! 

新型コロナの影響があるのかないのか、以前と同じくらいの人出で賑わっていた。

さっそく、1Fにある沼津コートへ。一角に展示コーナーがあり、数点の作品が飾られていた。

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沼津コートのコミュニケーターとして働いている芦澤有里さんによる展示『“treasure” 』。
白い画用紙の上に描かれた抽象的な作品たちだ。

水彩で色付けしたり、色紙を貼り合わせたり、やわらかな雰囲気で自由に描かれている。

スズキがめずらしく神妙な口調で言った。

やわらかい色が素敵だね。でも、1+1=2みたいに、アートって誰でも同じ答えがでないでしょ。一般的に抽象的な作品って、どう捉えるのが正解なんだろうね。

スズキが悩ましく思っているのは、金髪の年下美少年に告白されたことではなく、アート作品の正しい鑑賞方法のことだ。

なかでも抽象的な作品は、鑑賞する人間それぞれがどう受け取るか、ある部分を任されているようなところがある。
ゆえに、これが正しい、という答えがひとつではないと思う、ペコ吉も、めずらしくまじめに答える。

場所は、沼津コートを眺められるスタバ店内。
スタバの店内で、好きな飲み物を前に話すのも、思えば久しぶりだ。

作品を見せていただいた後、作家さんに、自分の感じた感想をどう伝えたらいいのか難しい。

まじめか。

四半世紀も前の話、高級ブランドのマフラーをいただいたペコ吉は、ブランドなどまったく知らないので、プレゼントのお礼をどう言えばいいか迷った挙句、高級カシミアの質感でもハイブランドでしか実現できない上品な色合いでもなく、長さがちょうど良い、と一番残念な答えをしたほろ苦い思い出がある。
たとえばそういう時、もうちょっと気の利いた答えができないものか、というようなことをスズキは言いたいのかもしれない。

どんな場面でも便利に使えるフレーズとして、「なんとなく好き」というキラーワードを使って、全体をぼんやりさせて逃げるという方法もなくはない。

しかし、使い手はスズキである。

彼女に中途半端なコメントなど似合わない。
どんな場面であれ、スズキここにあり、といわんばかりの剛速球をグイグイと投げ続ける背中を、はちみつ漬けのレモンスライスを入れたタッパを抱えて見続けていたいのだ。

アートに限らず、わかりやすいもの、わかりにくいもの、いろいろある。
答えがひとつではないものを、どう捉えていいかわからない、というスズキの素直な感想は、正しい。

たとえば、さっきまで話をしていた書肆ハニカム堂さん。歩き飲みをしていて、家にいる時は飲酒をしているという。わかりやすく、飲みすぎです。
さらに、もうひとつ前の松福。かたやきそばを盛りつけたお皿は、明らかに大きすぎだっし、半チャーハンはどう見ても毎回、一般的な一人前の量であることは皆、知っている。
わかりやすいものは、いい。

お茶の生産農家・五十鈴園の鈴木崇史さんが作るお茶。感じ方は人それぞれなので、スズキもペコ吉も大好きだが、他の意見を持つ人もいるだろう。違う感想を持つ人を排除する人もいるだろうし、自分の学びにつながる、と耳を傾け、そこから何かを学ぼうとするひたむきなスタンスは、鈴木さんの中にある。「美味しい」は、その人の主観なので、答えはひとつではない。思ったまま答えるのが難しいジャンルだ。

たとえば、梅干し。ペコ吉は、ここ数年、毎年、梅干しを漬けている。感覚だけを頼りに仕込んでいるので、毎年、味のバラつきが激しい。ある時、味が上ずっていて、食感もよくない最悪の梅干しができたことがある。瓶いっぱいのマズイ梅干しを持て余したペコ吉は、見て見ぬふりをして、台所の床下に押し込んで数年。ふと、その梅干しを取り出して、もう一度、食べてみた。……、美味しくなっている。(おぉー!)
梅干し漬けの先輩によると、そういうことは、よくあるという。

あせらず、時間に任せておく。

「わからないこと」も、そうかもしれない。その時、自分にはわからなかったものが、時間とともに熟成され、消化され、なにかの拍子に「あ、そっか」と、すんなり腑に落ちる時がくる。

わからないという事がわかっていることも素晴らしいはず。素直にわからない、というところから始まることもあるかもしれないのだ。



梅干しとゲージツの間にあるもの。
それは、そのうちわかる。その一言に尽きるのかもしれない。


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