FC2ブログ

Welcome to my blog

Hello, I am an admin of this site.
I've been expecting you.
I'm so glad that I met you xoxo.

01

「日常とpoésie. 」 November

まなちゃん11月

 海外でほんとうにひとりになるのははじめてだった。



 先月にした12日間のヨーロッパ旅行は、最初の一週間をベルギーにある友人宅で過ごし(友人家族とともにオランダにも旅行した。大好きなディック・ブルーナの故郷、ユトレヒト!)、ロンドンへ寄って帰る、というプランだった。

 一人で行く旅先に、ロンドンをえらんだのには理由がある。十代のころ、行きたくてパスポートを取ったのに、さまざまな事情がかさなって結局行かれなかった都市だからだ。



 ビートルズ。ミニスカート。マリー・クアントのルックに、モデルのツィッギー。モッズ。カーナビー・ストリート。

それは1960年代にロンドンの若者たちがおこしたムーヴメント、スウィンギング・ロンドンから生まれたカルチャーを象徴する名詞たちで、十代のころ、わたしはそれらを何よりも好きだった。たくさんの映画を観て、本を読み、当時の広告をコレクションしていた学生時代。わたしにとってのカルチャーの入り口は、たぶん“そこ”だったのだと思う。



 未成年で取得した青色のパスポートには5年間の有効期限がついていて、一度も使わないうちに期限切れになってしまった。当時購入したガイドブックは、ぼろぼろになって今も本棚のすみにある。

 26歳になった今、一人でそこをおとずれるのは、とても個人的で、けれど特別なことだった。

 

 ユーロスターの終着駅であるセント・パンクラスはうつくしい駅で、プラットフォームからはガラス張りの天井とおおきな時計の文字盤、ショッキングピンクのネオンサインが見えた。「I want my time with you」と書かれたそれは現代芸術家のトレイシー・エミン氏が製作した期間限定のアート作品で、EU離脱問題に揺れる英国で活動する彼女からの、EUのひとたちに向けた愛のメッセージでもあるということだった。ロンドンに来たのが、夢みたいだと思った。



 ロンドンでは毎日いろいろな場所でさまざまな種類のマーケットが催されているとのことだったので、その日程にあわせてたくさんの街へでかけた。世界最古の地下鉄と、二階建ての赤いバスを乗り継いで。

 滞在中はずっと雨が降ったり止んだりしていたけれど、ヨーロッパのひとは皆あまり傘をささなくて、雨に濡れても気にしていないように見える。歩道にひろげられたシャンデリアのパーツや木箱に入った青果が濡れているのはきれいで、立ち止まってはよく見とれた。午前中は蚤の市でがらくたを買い、いくつものアンティークショップや古着屋や書店を巡って、遅いお昼はパブで食べた。一人でレストランに入るより気楽だし、安くて美味しい。フィッシュ・アンド・チップス、ステーキ・アンド・キドニー・プディング、日曜日は終日提供のサンデー・ロースト。ビールは「パイント」という単位で数える。ハーフパイント、と注文すると、丸っこいかたちのかわいいグラスで出てくるのがうれしかった。



 ロンドンは地区ごとに全然ちがう顔のあるおもしろい都市だったけれど、ウエストエンドのコヴェントガーデンからソーホーにかけてを歩いた日、わたしは夕暮れどきのパブでジントニックを飲みながら、学生時代の自分に会いたいと思った。ソーホーでお茶したり、買い物したりするのが夢だった、シックスティーズの服を着た今よりすこし幼いわたしに。叶えられる夢だよといえたらどんなに救われるだろうと、メリーポピンズがやっている劇場の前にある老舗のパブで、席が足らないからと外で立ったままお酒を飲んでいる楽しそうなひとたちのなかで、ひとりで、夜がはじまるのを見ながら長いあいだ考えていた。金曜の夜のソーホーは、イルミネーションの光が雨に濡れた石畳のでこぼこに反射して眩しいくらいにあかるかった。



 あの光景を、わたしはずっとわすれないと思う。ガイドブックには載っていない、写真にも残せない、それはわたしが消えたら失われる記憶に過ぎないけれど、26歳になったわたしはロンドンへ来たがっていた、学生時代のわたしをちゃんとここに連れて来られた。それはとても個人的で、しかも大切なことだったのだ。

 成人してから取りなおした赤色のパスポートには、十月十日にブリュッセルを発った、列車のマークのスタンプが押してある。











杉浦 真奈(Sugiura Mana)

旅する古本屋「古本とがらくた paquet.」として活動中。植物図鑑と古い料理本が好き。

「ほぼ月刊ぱけのこと」というフリーペーパーをつくって配っています。

イベント等への出店予定はSNSをご覧ください。

Twitter⇨books_paquet

instagram⇨paquet_manaty

mail*mana.sugiura1216@gmail.com
スポンサーサイト



0Comments

Leave a comment