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01

日常とpoésie. February

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誕生日の前の週、職場にバースデーカードが届いた。ある友人からだった。

 彼女とは以前よく遊んだが、月日を経て環境が変わった今、気軽に会うことはかなわなくなってしまった。けれど明るくてコーヒーが大好きな彼女はもう長いことスターバックスコーヒーではたらいていて、毎年欠かさず誕生日にスターバックスのドリンクチケットを送ってくれるのだ。

 わたしはスターバックスが好きでよく行くのだけれど、ドリンクのカスタマイズには疎く、普段はごくシンプルなものしか頼まない。でも、彼女からチケットが送られてきたときだけは、カードに添え書きされた彼女のおすすめをためすことができる。
 今年は「シロップ抜きの豆乳カモミールティーラテ、蜂蜜がけ」だった。



 夜、すっかり行きつけになった富士山の見えるスターバックスでそれを飲みながら、わたしは彼女にお礼のメールを出した。
 返事は、すぐに届いた。その文面には、ある恋を終わらせたことと、それにともなって引っ越しをしたこと、体調を崩して休職していることが短い言葉で書かれてあった。わたしは返す言葉に詰まった。

「編み物なんかしちゃってるんだよ」

 ついでみたいに書かれていた、現実の彼女が話すときみたいにふざけた調子の一文に、わたしは胸が痛くなった。編み物なんかしちゃう日々ってどんなだろう、と思った。あたらしい部屋で編み物をして過ごし、例年通りバースデーカードを送ってくれた、彼女の日々。

 かつて彼女は歌うたいだった。毎週、路上で歌っていた。彼女が描く絵はやさしかった。時々、それは売れた。

 べつに、わたしは彼女のことを、編み物なんかぜったいにしないタイプだと思っていたわけではない。
 器用な彼女はマフラーでも手袋でも、なんでもじょうずに作るだろう。
 でも、やっぱりわたしはどこかで彼女のことを、編み物なんかきっとしない女だろうと思っていたのだ。だって編み物は、彼女の得意とするところの、歌とも、絵とも、性質がちがう。

 蜂蜜をかけたカモミールティーラテは強い花の香りがして、こっくりと甘く、しみじみと美味しかった。
 彼女の日々の平穏を、わたしはスターバックスで祈った。



 わたしは過去、彼女に「元気になる方法」というのを教えてもらったことがある。心身ともに疲れているのがあたりまえみたいな日々のなかだった。
 彼女はそんなわたしのために、一輪の赤いダリアを買ってきてくれたのだ。
 自分ではえらばないその花は、燃え立つような赤色をしていた。存在感のある花だと思った。
 
「憂うつな日には、赤いダリアを買う」

 大輪のダリアを手渡しながら彼女が教えてくれたその素敵な習慣は、それから何度となくわたしの行く手を照らしてくれた。
 おまじないみたいなものでしょう、といってしまえばそれだけのことなのだろうけれど、それは理由もいえないような日々をおびやかす憂うつに、本当によく効いたのだ。

 彼女のあたらしい部屋には今、ダリアが飾ってあるのだろうか。わたしは考え、きっとあるはずだと思う。真紅のダリアが、あるいは彼女自身が見つけた、ダリアに代わる特別な何かが。

 幸運なことに、というべきかどうかはわからないけれど、とにかく今、わたしの部屋にダリアはない。でもきっとそのうちにまた、あの燃え立つような赤を必要とする日はやってくるのだと思う。
 ただ、いつも何の前触れもなく現れてはわたしを飲み込むゼリーのような暗闇を、わたしは以前ほどおそれてはいないのだ。ダリアを買いに行けばいい。あんなに主張の強い色はわたしには似合わないけれど、そんなことはこの際関係ない。


 彼女から届いた最新のメールには「わたしね、これから元気になる」と書いてあった。マフラーの写真が添付されていた。それはうつくしい編み目をした、グレイの、地味なマフラーだった。


杉浦 真奈(Sugiura Mana)
旅する古本屋「古本とがらくた paquet.」として活動中。植物図鑑と古い料理本が好き。
「ほぼ月刊ぱけのこと」というフリーペーパーをつくって配っています。
イベント等への出店予定はSNSをご覧ください。
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