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「日常とpoésie. 」 June

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ジェラシーについて書いてください、とマイさんに言われた。マイさんというのはこのエッセーが載っているfika +の編集長で、はじまりの森をはじめとした静岡県のマルシェやイベントを企画・運営されている方だ。

その依頼は先月、裾野にある興禅寺というお寺であったイベントでマイさんにお会いしたときにいただいた。わたしは快諾し、「思いあたるふしがいっぱいありますね」とわらったのだけれど、それから一ヶ月、締め切りが差し迫ったきょうまで書き出すことができなかった。
ジェラシー、ときいて思いあたることがらはたしかにあったはずなのだけれど、そのうちのどれひとつとしてうまく思い出すことができず、考えているうちに、そもそもジェラシーって何なのか、わたしが感じていたものは本当にジェラシーだったのか、よくわからなくなってしまったのだ。

ジェラシーを辞書をひいてみると「自分よりすぐれている人をうらやみねたむこと」「自分の愛するものの感情が他の人に向けられるのを恨み憎むこと」「やきもち」と書いてある。

自分よりすぐれている人など大勢いるし、わたしにできないことができる人を見ればうらやましかった。恋人がかわいいと言う芸能人にやきもちを焼いたこともある。
そのときに感じた嫌悪感や不快感はたしかに痛かったような気がするけれど、でもそんなのは一瞬で忘れた。わたしはもともと、感情が長続きするほうではないのだ。(そのくせ感情的に文章を書くタイプなので、今、書けないのだと思う。)
しかし、それがジェラシーだったとするなら、わたしはジェラシーを感じることによってあらためて突きつけられる劣等感のほうがよほど痛くて忌々しいと思う。しかも、それは長続きする!

いつ、だれにたいして、どんなジェラシーを感じたとしても、その根底にある自分自身にたいして抱いている劣等感は一種類しかない気がする。ほかの人のことはわからないけれど、わたしの場合。
わたしはそれと、けっこう長い付き合いになる。かんたんに捨てられそうになくて、せめてうまくやるつもりで歩み寄らざるをえなかったし、その結果としていくつかの処世術を身につけた。たとえば、愛想よくふるまうことだとか。劣等感なんてものにしばられていることをわかられたくなかったのだ。
だれにたいして、何のためにかっこつけているのかさえ定かではないのだけれど、たぶんわたしは劣等感にしばられずに生きてみたいのだと思う。処世術に頼って自分をまともに見せかけるのは立ち向かうよりかっこわるいし、逃げられないのに逃げ続けているみたいで、ばかみたいでとても疲れる。この感じは自分にしかわからないと思っているのも、こういうことを書いてしまえるのも、だれにも見えない暗やみに陶酔しているみたいで本当は気にいらないのだけれど、劣等感は手強いのだ。
あるいはありふれた自己啓発本のように「劣等感こそが原動力だ」などときれいに言うこともできるのかもしれないーー実感することさえできれば。あいにくわたしには劣等感による原動力を実感したためしがないのでそうは言えず、ジェラシーそのものより劣等感のほうが、より厄介なしろものだと思っている。



少々話が飛ぶのだけれど、わたしは先日、気球に乗るために兵庫県へ行った。熱の力で空を飛ぶ虹色の気球を夢にまで見て、友人たちと予定をあわせ、五時間もかけてゲレンデのあるキャンプ場まで行ったのに、気球には乗れなかった。風が強かったのだ。
しかたがないので、サービスエリアで夕ご飯を食べて帰った。わたしは帰りの車のなかで、同乗していた友人たちに、ジェラシーって何だと思う、ときいてみた。ほぼ辞書通りのことが返ってきたし、うまい例えで教えてくれもした。自分自身のことや考えを話してくれた人もいた。それは興味深かった。それぞれのジェラシー。その内側にだれもが持つ、その人だけしかしらない暗やみ。わたしは、先に書いたようなわたしのなかにある答えの見つからない問題や、こんなふうに生きたいという願いみたいなものを、彼らも抱えているのだろうと思った。そのなかみを、言葉にできる範囲でしかわたしたちは伝えあうことができないけれど「ある」と「ない」は全然ちがう。その夜にわたしが自分の将来を少しだけ心強く思えたのは、そういう理由によるものだった。



ジェラシーについてうまく書くことはできなかったけれど、今回書いたものは、わたしがわたしの暗やみをみつめて書いたものにほかなりません。正直、何かの役には立たないと思う。
でも、今、ここに書いておくことができてよかった。何年か後にわらいたいです。
お題をくれたマイさん、どうもありがとうございました。



杉浦 真奈(Sugiura Mana)
旅する古本屋「古本とがらくた paquet.」として活動中。植物図鑑と古い料理本が好き。
「ほぼ月刊ぱけのこと」というフリーペーパーをつくって配っています。
イベント等への出店予定はSNSをご覧ください。
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